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毎年恒例となっている年鑑を化学工学誌10号として皆様にお届けします。今年に入っても新型コロナウイルスの収束の兆候が見られず,読者の皆様におかれましては日々の業務遂行に大変ご苦労されているものと思いなす次第です。コミュニケーションを図ることが難しい中,各部会などで情報収集や執筆をご担当された方々,および取りまとめをご担当された編集委員の方々に厚く御礼申し上げます。
さて,私はこの4月から小林前編集委員長の後任として化学工学誌の編集に,寺田副編集委員長,編集委員の皆様とともに携わらせて頂いています。毎年この化学工学誌10号は,化学工学会の14部会の協力のもと年鑑として作成されています。今年の巻頭言を執筆するにあたり,過去10年間の年鑑の化学産業界の動向を拝見すると,一言で言えば,日本の化学工業の競争力をどのように維持していくかという論点に集約されるように感じます。石炭化学,石油化学,天然ガス化学を下地に,その競争力維持のために幅広く他工学分野にまでボーダーレスに化学工学が融合展開されています。改めて化学工学の裾野の広さを感じる次第です。かく言う私も,機械系に始まり,燃焼,移動現象,熱・流体,触媒,化学プロセス,電気化学,プラズマ化学,エネルギー,電気・電子と,あらゆる科学技術分野に携わり,それを直に感じてきました。時代のニーズがそうさせたのだと思います。
そして今,この科学技術に,更なる大変革が起ころうとしています。脱炭素化です。炭素を利用しない,あるいは炭素を循環利用して大気に排出しない世界を2050年までに目指そうとする野心的な考えです。これは化石燃料資源をベースにこれまで発展してきた化学工学の大転換期の始まりと言っていいのではないでしょうか。気候変動問題から始まった世界的なこの流れは,この1年で急速に進展しています。二酸化炭素を排出する企業,排出しない企業の選別が既に投資家の間で始まり,その選別に残ろうと各企業とも必死に脱炭素経営計画を公表し始めています。
逆にこれは従前来の化学工学とは違った領域で,新しい企業価値創造のために,持続可能な社会構築に資する化学工学,今まさにこの分野の新しい科学技術が求められていると言っても良いでしょう。コロナ禍の中にあっても,科学の力によりいずれ社会は脱出することになります。その時までに我が国も特に欧米に出遅れないよう産官学一体となって準備を進めていかなければなりません。
2050年に我が国の産業が空洞化しないためにも,今も,これからも化学工学は重要な学問であり続けるでしょう。そこには,今までにない新しく融合展開した化学工学の世界がある。面白そうだと思いませんか? 若い研究者の皆様には是非いろいろな領域へのチャレンジと経験をしてもらいたいところです。今回の年鑑,更に各化工誌号に紹介する技術内容が我が国の新しい化学工業の発展と競争力確保に大いに貢献していくことを願って止みません。
この化学工学誌では,この10号以外の各号においても各編集委員がその時々の時流に合った特別企画を立案し,それに携わる産官学の皆様の最新動向を調査の上,執筆内容・構成の検討,執筆者選出・依頼,執筆・編集校正など約半年の期間を経て各号をまとめ上げています。編集委員会は,企業から21名,大学・高専から24名,官公庁から3名,そして学生会員3名を合わせて合計51名で構成され,重化学・エネルギー系,エンジニアリング系,ファイン・医薬系の3つの分科会に分かれて編集活動をしています。しかし,様々な科学技術の融合展開,ボーダーレス化で3分野の協力を要するテーマもあるでしょう。現在は全ての会議がコロナ禍にあってメールとオンラインで進められ,委員全員が集まって,議論ができない状況ですが,編集委員の方々のご尽力で編集作業を進めることができております。微力ながら私自身もお手伝いできればと思っています。
最後になりましたが,昨今の我が国産業界の縮退傾向から,化学工学者・エンジニアを志す者には,化学工学本来の魅力が薄れつつあるのではないかと危惧する次第です。時代のニーズは変われど,従前来の王道となる化学工学がなければ解決できないことは明白であり,他工学分野との融合ほど面白いものはありません。化学工学誌の紙面作りにおいては,編集委員の皆様方とこの魅力をお伝えできる情報をご提供できればと思っている次第です。任期の期間中,皆様方のご支援・ご鞭撻のほど宜しくお願い申し上げます。
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