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反応工学は,石油から液化石油ガス,天然ガスと時代と共に変わってきましたが,炭化水素を反応原料にプラスチック,合成繊維,合成ゴムや塗料などの多種多様の化学製品を製造する石油化学工業に大きな貢献をもたらしてきました。触媒を用いる反応プロセスでは,開発した触媒の性能を最大限発揮できるように,流体移動・熱移動・物質移動や反応速度に関する情報と共に反応工学を活用して,反応器の設計と操作の最適化をおこなうことで数多くのプロセスが実用化されてきました。
2000年代に入って反応工学では,装置・プロセスに注目したマクロなレベルから活性点に注目したナノレベルまでを連続的に取り扱う触媒反応工学が著しい進展を遂げてきました。更には反応に分離を組み込んだ反応分離工学,流動層反応器・気流層反応器,マイクロリアクターやバイオリアクター,超臨界流体場反応器など新しいコンセプトに基づき展開してきた反応装置工学,また反応物の活性化を熱以外に光,超音波やプラズマや電気を用いた新しい反応場に注目した反応場の工学についても研究開発が活発におこなわれています。2002年に発足した反応工学部会は,現在,触媒反応工学,ソノプロセス,反応分離,CVD反応,反応場の工学,マイクロ化学プロセスの6つの分科会から成り立っており,化学反応が関与する幅広い分野において,学理の構築,更には産学連携を通じて環境調和型反応プロセスの社会実装に貢献しています。
反応工学は,石油化学工業に留まらず,機能性材料やデバイスの設計・製造,更にはエネルギー生産や地球規模の環境問題なども対象としています。我が国では2050年までのカーボンニュートラル実現を目指していますが,2030年度には温室効果ガス排出量を2013年度比で46%削減することが目標となっています。2050年まで直線的に減少させるのではなく,想像がつかないほど大胆な方法で減少させることが求められています。現在方策として挙げられているのは,発電における脱炭素化,水素自動車導入による排ガス削減と高効率化,航空機や船舶におけるグリーン燃料の使用,森林による吸収拡大,CO2回収・固定化,更にはカーボンリサイクルなどです。具体的な課題としては,例えば再生可能エネルギーを利用した発電用アンモニアのマイルドな反応条件下での合成,CO2からのグリーン燃料油や化学製品の反応原料の合成,CO2の分解による炭素の固定化など,反応工学をベースにしつつも従来の常識に囚われない方法で取り組まなくてはならないでしょう。更には従来の熱化学反応に変わり,再生可能エネルギー由来の電気を利用するプロセスの開発も必要となってくるでしょう。電極電位をエネルギー源とする狭義の電気化学反応場のみならず,電気をエネルギー源とする超音波反応場やプラズマ反応場,更には触媒層に微弱な電流を流す電場印加触媒反応など,広義の電気化学反応場の実用化を期待して止みません。
反応器はこれまでの触媒を詰めて熱を伝える単純な容器から大きく変化していくでしょう。新たな機能を付加した反応器を実用化する際には,多くの場合,かなりの金額を初期投資することになると思われます。従って化学反応プロセスのライフサイクルコストを如何に最適化するかが社会実装に向けて鍵になると思われます。触媒のみならず使用する材料は長寿命化および高耐久性が要求され,機能診断や劣化予測による適切な運転操作を策定するマネジメントが必要となるため,様々な工学分野への波及効果が期待されます。
本号の特集「進化する反応場」では,反応工学分野における大学・研究機関・企業における反応場の開拓に関する研究事例とアウトプット事例が集められており,既存技術の延長ではない,いくつかの革新的な反応プロセスに関して詳しく紹介されています。対象は多岐に亘っており,ケミカルエンジニアにとって興味深いものばかりです。反応工学が大いなる進化を遂げて,カーボンニュートラルな持続可能な社会を創出するに立ち塞がっている数多くの難問題に対して解決の糸口となり,新たなる産業創出に繋がることを願っております。
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