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2021 Vol.85 No.3 巻頭言

特集 プラスチックリサイクルの現状

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巻頭言

持続可能な社会におけるプラスチックの使い方

 1969年に月面から初めて撮影された地球は,漆黒の宇宙に浮かぶ青白く輝く美しい惑星であった。科学の粋を集めて到達した月は砂漠の様な世界であり,ふり返って見たかけがえのない地球の重要性に改めて気づいたことが地球環境保全の原点と言える。1972年にローマクラブが発表した「成長の限界」を契機に,ストックホルムやナイロビでの国際会議を経て,環境を重視する先進国と開発を進めたい途上国との共通解として持続可能な開発が提唱された。人類は産業革命以降,産業の急速な発展によって地球環境に急激で深刻な影響を与えるようになった。この現代に対し,最近,地層年代の新しい区分として「人類の時代」を意味する人新世(アントロポセン)と命名することが提案された。
 我々が利用できる資源は地表から深さ僅か10 km程度に過ぎず,金や銀等の累積採掘量は,採掘可能な量の60%を超えたと推定されている。すなわち,持続可能な社会を維持するには新しい天然資源だけでは不十分で,資源を循環利用しなければならない時代に入ったと言える。またこれまで石油や石炭等の埋蔵量は最大の関心事であったが,使用できる量には上限(カーボンバジェット)があり,それ以上の化石資源は座礁資産と見なされるようになった。再生可能資源が実用化される近い将来,有機資源も循環利用が原則となると考えられる。
 鉄等の金属の原料となる鉱石の多くは,熱力学的に安定な酸化物である。一方,使用済み製品に含まれる金属の大部分は還元状態にあり,新たに天然鉱石を採掘するよりも使用済み製品をリサイクルした方がエネルギー的にも経済的にも圧倒的に有利である。金属のリサイクルは元素の循環利用であり,金等の希少で市場単価が高い金属類は水平リサイクルされ,鉄等はカスケード的にリサイクルされる場合が多い。
 プラスチックは炭素等の汎用元素からなる化合物であり,物性はその化学構造や純度に由来し,不純物が混入すると物性が著しく劣化することが知られている。製造時に投入されたエネルギーは精製および合成の際に消費され,内部に蓄積されてはいない。化学構造をそのまま再利用するマテリアルリサイクルはプラスチックの特徴を活かしたリサイクル方法であるが,使用時の物理的および化学的作用によって劣化している場合が多く,その品質に合わせてマテリアルリサイクルやケミカルリサイクルおよびエネルギー回収から最適な手法を選択すべきである。プラスチックを完全に水平リサイクルすることは難しく,カスケードの傾きをなるべく水平に近づけることが技術的な課題となっている。
 プラスチックの種類は非常に多く,添加剤との組み合わせを含めると数万種類以上となり,この種類の多さがリサイクルを困難にしている原因の一つとなっている。これまで比重や光学的手法によって選別されてきたが,微量な添加物を正確に検出することは極めて困難である。リサイクルを促進させるには,プラスチックや添加剤の種類を制限すると共に,情報技術を駆使してライフサイクル全体を管理するシステムの構築が必要である。
 バイオマスプラスチックや生分解性プラスチックは,プラスチックの環境負荷を低減させる旗手として注目されている。バイオマスプラスチックは有機素材の脱化石化を促進するため,実用化を目指した技術開発が進められている。しかし原料生産に必要な土地(海洋面),水,ミネラルが食料生産と競合する場合が多く,また生物多様性への配慮も必要である。生分解プラスチックは,農業用マルチフィルム等のように回収に多大なエネルギーを要する製品への応用が期待されている。しかし市民がプラスチックを投棄しても良いと誤解してモラルハザードを引き起こす可能性もあり,慎重に実用化を進めなければならない。
 プラスチックは工業用素材として優れているため,世界で毎年約4億トンが製造され,今後生産量は更に増加すると予想されている。無駄で過剰なプラスチックの使用は当然削減すべきであるが,感染症と共存する時代,貧困地域を含む世界へ広く清潔な水や食料あるいは医療品を届けるためには不可欠な素材である。
 これまでプラスチック等の工業製品は価格と品質で評価されてきたが,これからは製品のライフサイクル全体を通しての環境負荷が重要な評価軸となる。また,児童労働の禁止,ジェンダーや人種による差別の禁止,人権,生物多様性等の倫理性(ethics)への配慮も必要である。かけがえのない地球の環境を守るため,持続可能な社会ではプラスチックの特徴を活かしながら適正に利用できる新たな知恵が求められている。

加茂 徹
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加茂 徹

How to Use Plastics in a Sustainable Society

Tohru KAMO

  • 1981年 東北大学工学部応用化学科卒業
    1986年 東北大学大学院工学研究科応用化学専攻博士課程後期修了 工学博士
    1986年 東北大学工学部応用化学科 助手
    1987年 工業技術院 公害資源研究所 研究員
    2001年 産業技術総合研究所 エネルギー利用研究部門 研究グループ長
    2010年 産業技術総合研究所 環境管理技術研究部門 研究グループ長
    2015年 産業技術総合研究所 環境管理研究部門 上級主任研究員
    2019年 産業技術総合研究所 環境管理研究部門 退職,招聘研究員
    2021年 早稲田大学 ナノ・ライフ創新研究機構 客員教授

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Online ISSN : 2435-2292

Print ISSN : 0375-9253

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