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2022 Vol.86 No.10 巻頭言

化学工学年鑑2022 1. 化学工学一般

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巻頭言

「化学工学年鑑2022」の発刊にあたって

 「化学工学年鑑2022」を読者の皆様に無事にお届けすることができ,安堵しております。ご執筆頂きました化学工学会の14部会の皆様方には,心より感謝申し上げます。皆様のご尽力により,国内外の各分野の基礎研究から応用技術開発にわたる動向および今後の展望を網羅した年鑑を発刊するに至りました。ダイナミックに変わりゆく地球環境や社会情勢の流れに対応すべく,化学工学分野の研究が日々弛みなくおこなわれており,国内外の14にわたる研究分野の潮流を定期的に俯瞰することは,今後の技術開発を進める上で重要であると考えます。また,「1.化学工学一般」では,コロナ禍による社会情勢の変容と,それに伴う産業・経済活動の動きや今後の産業界の動向が包括的にまとめられています。読者の皆様にとって,本年鑑がウィズコロナの時代とその先を示す羅針盤となるとともに,化学工学が取り扱う幅広い領域の中で新しい革新的技術の開発に向けたヒントを提供する情報源となることを願うばかりです。

 ここ数年の国内・国外情勢を俯瞰してみると,激動の時代の真っ只中にいる状態かと思います。新型コロナウイルスの蔓延により,社会様式の変容を余儀なくされた上,2022年2月24日のロシアのウクライナ侵略以降,食料・エネルギー需要のひっ迫,半導体をはじめとする物流の停滞がサプライチェーンに甚大な影響を与えています。また,温暖化がもたらす異常気象,サル痘の感染拡大への懸念など,世界を揺るがすニュースが飛び交い,日常生活において不安やストレスを感じざるを得ません。気持ちが荒むようなニュースが続く上,経済・科学技術における日本の国力低下に関する記事を目にします。スイスの国際経営開発研究所が2022年6月に発表した「世界競争力ランキング」1)では,1989年から1992年まで4年連続で1位を獲得していた日本は,ランキング順位を落とし,調査対象63か国中,34位という結果が報告されました。また,文部科学省の科学技術・学術政策研究所が報告した「科学技術指標2022」2)において,日本の論文数は横ばいであること,被引用数の高い論文数のランキング順位を落としていることが報告されています。世界大学ランキングにおいても,日本の大学の順位が停滞しているというデータがあります(Times Higher Education, Quacquarelli Symondsなど)。このような世界ランキングの数値を一見すると,日本の国力が衰退しているように見えます。

 一方,化学工業や化学工学の分野において,コロナ禍で活動制限がある中でも日本のアクティビティは高い水準を維持している様子が,化学工学年鑑2022の2〜15章の「国内外の動き」から読み取れます。政府が打ち出した2050年達成目標のカーボンニュートラルに向けた温室効果ガスの排出削減,地球規模で問題となっているプラスチックなどの廃棄物や窒素化合物のマネジメントに対しては,複数の分科会が取り上げている共通課題であり,国内で多角的に問題解決に向けた技術開発が進んでいます。また,地球規模の問題に関しては,JSTやNEDOが主導するムーンショット事業などにおいて,異分野の研究者がチームを編成し,製造から処理・管理といった上流から下流まで一気通貫でつなげる革新的なシステム開発がおこなわれています。壮大なプロジェクトが重点的に実施されていることは,日本の技術を集約した新価値を創出するシステムの社会実装が近いことを示唆していると考えます。

 年鑑の各章に詳細が記載されておりますが,分野を横断するシステム開発および最適化には,化学工学のシステム論的なアプローチが重要です。また,社会様式の変化により,マテリアルズインフォマティクス・プロセスインフォマティクス・機械・深層学習などによるデジタルトランスフォーメーションの重要性が高まりを見せていますし,半導体やマイクロデバイスなどの材料開発においても,物質移動や反応工学を駆使した微小空間の制御が鍵となっています。化学工学のあらゆる分野での貢献は枚挙に暇がありません。カーボンニュートラル,持続可能な社会構築,廃棄物問題,水環境問題に加え,ポスト・ウィズコロナにおける社会様式の変容がもたらす製造業や日常生活の新しい「あるべき姿」の実現に挑む化学工学への期待は極めて高いと考えています。

 最後になりますが,私は2021年4月より化学工学会誌の副編集委員長として,橋﨑克雄委員長のもと,学会誌の企画編集に携わらせて頂いております。化学工学誌は会員の皆様にとって引き続き有益な情報源であるべきと考えております。微力ながら更なる学会誌の充実化に尽力する所存です。学会HP(http://scej.org/kakoushi/enquete/)にてアンケートを実施しておりますので,読者の皆様におかれましては,引き続き忌憚なきご意見・ご助言を賜りますと幸いです。

寺田 昭彦
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寺田 昭彦

東京農工大学工学部化学物理工学科 教授,令和3・4年度化工誌編集副委員長

化学工学年鑑2022 1. 化学工学一般

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Online ISSN : 2435-2292

Print ISSN : 0375-9253

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