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2023 Vol.87 No.7 巻頭言

特集 材料開発でのプロセスインフォマティクス活用を促進する
マテリアル・プロセス イノベーションプラットフォーム

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巻頭言

プロセスインフォマティクスの
可能性とこれからの姿を考える

 言うまでもなく「何を作るか」と共に「それをどう作るか」は化学および化学工学分野にとって重要な課題である。更に材料の物性はその作り方によって影響される。こうしたことから目的特性を持つ材料開発とその合成・製造プロセス条件を密接に関係づけることにインフォマティクスをうまく使っていくことを意識した「プロセスインフォマティクス」の考え方が始まった。その基本には材料設計とプロセス設計を連動させ,生産における品質管理にまでそのコンセプトを拡大することで,ものづくり全体をインフォマティクスの土俵に乗せる思想がある。

 この「プロセスインフォマティクス」は今から7年ほど前に講演や執筆を通して私が初めて提唱した言葉であり概念である1)。以来,産官学界のそれぞれの立場でこの言葉が持つ意味が掘り下げられてきた。産業界ではそれ以前から暗黙のうちにプロセスインフォマティクスに関係することがおこなわれてきたとの声を聞くことは多い。ただ,それを改めて眺めると,「何を作るか」と「それどう作るか」が必ずしも連携はしておらず,製造に当たっての条件検討あるいは制御という意味でしかなかったと思われる。繰り返しになるが,プロセスインフォマティクスにとって重要なことは,「何を作るか」ということと「それをどう作るか」ということを密接に連携させて,更には品質管理(製品としてどう安定的に作るか)までを射程に入れたインフォマティクス活用の全体像を考えることであり,そのために目的とする特性を持つ材料の製造基本条件を設計し,合成・製造装置から得られるプロセス変数と特性の変化の対応関係を定式化することである。更に商業生産する場合にはスケールの違いに由来する製造装置内の状態の把握,場合によっては流動解析シミュレーションも使いながら,製造プロセス全体のモデル化も重要となってくるのは自明の流れである。このような取り組みを通して見えてくるプロセスインフォマティクスの方向性には,スケールの大小の壁を越えた新しいリアクターあるいは混合装置のデザインもあると言える。

 プロセスインフォマティクスの基本概念の浸透に伴って,材料設計時に合成・製造プロセス変数が導入されることで,「何を作るか」と「それをどう作るか」は今や当たり前のように連動して検討されるようになった。また,そこで使われるプロセス変数を含めて構築されたリアルタイム監視ツール(ソフトセンサー)の利用により,プロセス変数の中の一部を操作変数とすることで安定した製品製造が可能となりつつある。

 ここで補足的に触れるとすれば,合成・製造において温度・圧力などのプロセス変数をモデル化のパラメータとして用いることは通常のやり方であるが,リアルタイムに計測可能な各種スペクトルデータとの併用も始まっている。スペクトルは材料構造の反映であり,したがって物性とも繋がっている。このようにして合成・製造中に物性と構造の変化を監視できれば我々は物性発現の本質に迫ることができるかもしれない。物性と合成を連携させる場合に,プロセス変数とスペクトルデータを利用したマルチモーダルモデルの構築とその運用は,これからの新しいプロセスインフォマティクスを切り拓くだろう。

 最後にプロセスインフォマティクスが可能とするサイエンスに目を遣ってみよう。材料設計時に用いる変数もプロセス設計時に用いる変数もダイレクトに現象の本質に繋がっているものもあれば,一方でその中には背後に本質に繋がる変数があって見かけの情報となっている変数もある。研究者はこれを鋭く見抜きながら仮説を立て,プロセスインフォマティクスを実用性と材料の新規発見や改良に結び付く解釈可能性を併せ持った,材料設計の本質に繋がる更なる高みに押し上げていく視点が今後強く求められている。上で述べたスペクトルデータを用いたマルチモーダルモデルの導入もそれに近づく道である。更なる高みにグレードアップされたプロセスインフォマティクスの概念はこれからの新しい材料開発のための今までにない視点を提供するに違いない。

船津 公人
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船津 公人

Potential and Future State of Process Informatics

Kimito FUNATSU(正会員)

  • 1983年3月 九州大学大学院理学研究科化学専攻博士課程修了 理学博士
    1984年3月 豊橋技術科学大学工学部物質工学系 助手
    1992年4月 同上 知識情報工学系 助教授
    2004年4月 東京大学大学院工学系研究科化学システム工学専攻 教授
    2017年10月 奈良先端科学技術大学院大学 データ駆動型サイエンス創造センター 研究ディレクター/教授(兼務)
    2021年3月 東京大学 定年退職(2021年6月 同大学名誉教授)
    2021年4月 奈良先端科学技術大学院大学 データ駆動型サイエンス創造センター センター長/特任教授
    現在に至る

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Online ISSN : 2435-2292

Print ISSN : 0375-9253

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