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石戸前会長の後を受け,2021年度化学工学会会長を拝命致しました。社会に貢献するという学会の精神を引き継ぎ,大きく変わりつつある環境の中で,会員が活躍できる学会を目指して微力ながら貢献できればと思っています。
このところ地球では毎年の様に新たな課題が出てきています。風水害,猛暑と猛火,と襲い来る災害は年々多くまた大きくなってきており,世界がこの地球規模の危機に取り組む中で,突如,未曾有の新型コロナパンデミックが世界を覆い尽くしました。これも人類の自然破壊が一因とも言われています。世界で多くの人が罹患し,多数の死者を出し,唯々ワクチンに一縷の望みをかけています。地球は病んでおり,今や限界が此方彼方で見え出しました。エネルギーも資源も,そして無限と思えた自然さえも有限です。生きたいが儘の生き方は許されなくなってきています。
学会の誕生後,幾多の社会の変遷を受け,化学工学は学際に大きく広がりました。変化に巡り合う度に様々な情報に触れ,自由な化学工学は技術革新を求め,次世代技術に向き合ってきていました。そして今,社会は気候変動に起因する困難な状況に直面しており,化学工学もその解決に向け支援し貢献すべき局面にあります。が,こういう中にあって,若い人の化学工学離れがあると聞きます。化学工学が統合技術力を発揮し魅力ある工学として進歩し続けるには,多くの人材が集い,技術革新を追い求め,それが社会への貢献に繋がる工学でなくてはなりません。学会では一人でも多くの知恵を結集して,着実に成果に結びつくように皆で道を切り拓きたいものです。
永六輔氏は「知恵は文化を作り,知識は文明を支えてきた」と言っていました。まさに地球を知識と知恵で支えたい。化学工学は文明を支える知識として,学会は文化を作る知恵として,互いの役割を担い,札幌宣言にある「Sufficiency」(充足感)が感じられる社会に向け文明文化を作る意気込みで,経済と産業の発展に寄与し,皆が幸せに満ち溢れて生きていける社会を実現したいものです。
ご存知のように,現在,人類が目指すべき道標のひとつに,持続可能な開発目標(SDGs)があり,どの目標も達成すべき喫緊の課題です。中でも気候変動問題には広い間口の化学工学こそが果たせる課題が数多くあると思っています。例えば,大量に必要となる再生可能エネルギーの内外での確保,CO2フリーのH2やそのキャリアの低コスト製造技術,その移送と活用の為の技術,社会における炭素循環や炭素固定化,そしてまた熱供給の脱炭素化も必要です。更には,電力ロス削減技術,環境負荷の小さいバイオ技術,膜分離,といった分野も重要です。これらを競争力ある形で実現すべくイノベーションを起こしましょう。
さて,今や産業は物を作るだけでなく,社会における価値の創造が急務で,変化する社会に直面して大きく舵を切っています。我々にはこの動きに対応する科学技術を創生し発展させていく人材を育成し,産学へ輩出する責務があります。これまでも化学工学が学際に広がる中にあっても,単位操作をはじめとした基礎学力を重視する産業界の要望も踏まえ,人材育成に注力してきています。また,今般の社会の変化に対して産業界が向かう新たな価値創造の戦略に柔軟に取り組める人材が期待されており,この育成に産学が連携して取り組めればと思います。勿論,産業存立の基盤である安全,保安,設備保全といった課題に対しDX技術を駆使した新しいアプローチで,これらの本質的強化に取り組める人材の育成も図りたいと思います。
ところで,言うまでもありませんが,学の活発な研究活動や各専門領域の深耕こそが産業の発展に繋がり,延いては化学工学の価値を高め,学会の基盤となっています。また,様々な世界で活躍する方々との対話を主体とした開かれたシンポジウムといった産官学,学際間の継続的な協働が新たなイノベーションに繋がっていくと思います。
広がり続ける化学工学への対応として,20年前に学会では体系的な研究の推進を支援する部会制が導入されました。その後,昨今の社会変化や技術革新からくる案件もあり,学の各位は研究の深化や教育活動に加え,学会の様々なユニットで多くの課題に取り組んでいます。これらの取組みはイノベーションの機会となってもいますが,繁忙感で日々余裕がなくなってはいないか気懸りです。化学工学への求心力には社会への貢献と研究成果こそが車の両輪です。学会として,この視点から各活動を見直し,どう活性化を図るかを皆で考えてみたいと思っています。
今年はビジョン2036作りが本格化します。多くの変化に向き合う時代を迎え,化学工学の未来を担う多様な若い力によるビジョンが楽しみです。伸び伸びとした清新の気を吹き込み,進むべき道を指し示してくれるでしょう。
「できることから始めよう。進めば,その先が見えてくる。」
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