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化学工学はこの半世紀以上に亘り,地球環境から社会環境,更に生活環境の改善と進歩に貢献してきた。特に,「ものづくり」においては,何を作れば良いのか,効率やコストを考え,設計から製造に至るまで,論理的であり精密さを増してきた。
近年,ソフトマターが「ものづくり」に注目され,医薬品,化粧品,食品に用いられている。様々な材料から,目的の商品を製造する。無機,有機,金属,ポリマー,ゾル・ゲル,と組合せも様々である。しかも,形状は粒子状,線状,平板状と多種多彩の組合せのため,物性も多様である。作り方も複雑であり,温度や圧力や滞留時間も多彩である。これらの異なる材料と異なるプロセスから,目的の商品を製造するには論理的思考法が適しており,物理化学的な方法論である化学工学が求められている。
化学工学者はラボ実験から実機に至るまでの研究開発を担い,分子レベルの化学から材料レベルの物理に至るまでを理解し,装置設計までの実践的なエンジニアリング技術を要求される。このように,化学工学者は研究開発の成果を現場に移管し,現場の製造技術を確立することが望まれている。これまでの石油化学を中心とした方法論に加え,材料を中心とした製造プロセスと,ソフトマター物性の理解が求められる。これは連続&大量合成ではなく,バッチ&少量多品種に基づいている。その結果,材料固有の物性を活用した制御方式,例えば自己組織化などを応用する。魚や鳥や昆虫が群れる自己組織化の原理が,材料である粒子群にも作用し,バインダーポリマーなどにより自発的に自己組織化する。元々,材料は相分離や相変化を起こし,構造を自己組織的に変えていく。この自己組織化の学理は非平衡と非線形に深く根ざしており,自然の摂理そのものである。この原理を化学工学に積極的に取り込む必要がある。(参考:スケールアップの化学工学(丸善出版,2019年))
非平衡状態が深くなると,材料はスピノーダル分解(拡散律速)や核発生(反応律速)を起こす。前者は連続的に相分離(浅い非平衡度)を起こし,連続的で双連続な相分離に至る。一方,後者の核発生はインキュベーション反応を経て,反応生成物の増加により,核発生(深い非平衡度)を経て不連続な相分離に至る。どちらも,非平衡状態の相分離であるが,核発生は凝集を経てエマルションになる。スピノーダル分解は緩やかな相分離であり,徐々にゲル化する。核発生はエマルション生成の後,急激な凝集によりゲル化していく。
微粒子濃厚液には様々な用途があり,相分離の研究材料として面白い現象が見られる。shear(せん断)をかけていくと,粘度が下がり始めるshear thinning(シアシニング)という現象が見られ,更にshearを大きくすると,粘度が上昇しshear thickening(シアシックニング)を起こす。これは,初期に凝集していた状態からshearによる分散が起き,続いてshearにより凝集が起き,その結果,粘度が上がり弾性も発現する。実は初期の凝集と後期の凝集では状態が異なる。粒子の接触を表す粒子配位数は,初期には低く3程度であり,thickeningの時は6〜7と大きく,緻密な凝集構造となっている。この違いは,shear thinningは空間的に均一に起きるが,thickeningは非平衡と非線形により空間不均一化して,壁境界では粒子濃度は希薄で,中央は濃厚となり,体積変化が起きるため不均一化が起きる。自己組織化の典型的事例であり,自然の摂理である。希薄領域と濃厚領域に相分離することにより,濃厚領域の数密度は更に大きくなり,新たな自己組織化構造が現れる。
この凝集と分散の状態により,全体の構造は大きく変化し,物性が変化していく。レオメーターなどの測定装置を用いて,LAOS(Large amplitude of Oscillatory shear)などの非線形粘弾性評価がおこなわれている。非平衡と非線形の数値シミュレーションの結果(「数値レオメーター」の開発)と比較検討することにより,ソフトマターの物性予測が可能になりつつある。つまり,粒子分散系の粘弾性特性が数値計算で求められ,化学工学の「ものづくり」への貢献は一層大きくなっている。原料や製造プロセスにより,自己組織化が起きて,様々な凝集構造が決まる。社会が望む材料の時空間構造を探索するのは夢があると思うが如何だろうか。
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