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2021 Vol.85 No.9 巻頭言

特集 大気圧プラズマの特徴と諸特性

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巻頭言

プラズマプロセッシングにおける化学工学の役割

 大気圧プラズマには一万度以上の高温を有する熱プラズマと,常温から数百度程度の低温プラズマがある。低温プラズマの非平衡性を活用した新規のプロセス開発については,本誌2011年6月号「大気圧プラズマが拓くあたらしい技術」においてまとめられている。
 一方,熱プラズマは大気圧においてほぼ熱平衡状態であり,高温を利用するという観点からプラズマ溶射や溶接として産業的に用いられてきた。最近は高温という特長だけではなく,プラズマ中のラジカルを活用したプロセッシングも実用化されており,2014年5月号に「熱プラズマプロセッシング」が企画されている。環境問題解決のための先端基盤技術のひとつとして熱プラズマ技術が注目されており,材料合成の分野では熱プラズマによるナノ粒子合成の研究が産学で盛んである。
 プラズマプロセスは成熟した技術とも考えられているが,社会的にはまだ限定された分野でしか応用されていない。これは目的とするプロセスにおいて,コスト面でプラズマ技術が競合技術に劣る場合があるからであろう。「プラズマでもできる」ではなく,「プラズマでしかできない」プロセスの開発がプラズマ技術の発展における課題である。
 また,プラズマ技術がオールマイティのように信じられていることが,この分野の発展を阻害しているのかもしれない。直流放電プラズマジェットは汎用的なプラズマシステムであるが,材料プロセスに用いるには欠点が多い。学術的にも産業応用においてもプラズマ分野を拡大するには,従来のプラズマ技術をただ使うのではなく,新たな視点に基づくプラズマ技術の展開が必要である。
 経験則に基づくプロセッシングの開発ではなく,化学工学が得意とする移動現象論に基づくプラズマ特性の理解やプラズマ発生の新展開も必要である。例えば,数torr程度の圧力領域のプラズマ生成は,熱プラズマと低圧プラズマの両方の特徴を有しており,これはメゾプラズマ(あるいは中圧プラズマ)として提唱されている。プラズマ発生においては,直流放電や高周波放電だけではなく,プラズマの形状を制御できる多相交流放電による新しい材料プロセスの展開が期待されている。また,ラジカルを豊富に有する水プラズマへの期待も大きく,特に廃棄物処理の実用化が進められている。
 プラズマプロセッシングの研究は,化学工学会よりもプラズマ・核融合学会,応用物理学会,電気学会などの活動が活発である。さらに各分野の中心となる研究者によって,日本学術振興会プラズマ材料科学第153委員会が構成され,産学共同を目的とした活動がおこなわれている。放電現象の観点から,プラズマ工学は電気電子工学では必須の学問である。核融合プラズマは,その長い歴史と知識の蓄積から,プラズマ物理における寄与は大きい。プラズマ化学やプラズマ物理の応用はエレクトロニクスが中心であることから,応用物理学会における活動も活発である。
 このような状況で化学工学がプラズマプロセッシングにおいて果たすべき役割は明確である。熱移動,運動量移動,物質移動の現象を理解して,プラズマプロセッシングを把握できるのは化学工学である。複雑な対象であっても,化学工学の基本である移動現象をもとに,実験と理論の両面で学術的なアプローチを続けることができる。材料合成や廃棄物処理などのプロセッシングにおいては,反応工学や分離工学の概念も必須である。
 プラズマプロセスの発展にはいくつかのマイルストーンがある。半導体産業は1970年代にプラズマ活性種と基板の反応過程の研究が盛んになり,「反応性プラズマ」という学際的な研究領域が形成された。大気圧近傍で生成されるμm~mmスケールのプラズマは,従来のマクロスケールのプラズマとは違った特徴を有しており,「マイクロプラズマ」という学術分野が創成された。最近は,プラズマと生体との直接的な相互作用の研究から「プラズマ医療」という学術分野が発展している。
 今後はさらに複雑なプラズマ現象を扱うことが避けられず,それに伴ってプラズマの応用技術は多岐に細分化し展開されていく。基礎現象を見ずして,プラズマプロセスをブラックボックスとして扱うアプローチでは限界がある。移動現象や反応工学に基づく化学工学の視点が,これからのプラズマプロセスの研究のマイルストーンをつくり,工業生産技術につながるプロセッシングの新たな展開を拓くことができる。プラズマプロセッシングにおける将来の舵取りとして,化学工学が役立つことを期待している。

渡辺 隆行
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渡辺 隆行

Responsibilities of Chemical Engineering in Plasma Processing

Takayuki WATANABE

  • 1984年 東京工業大学工学部化学工学科卒業 1986年 東京工業大学大学院理工学研究科修士課程修了 同 年 東京工業大学工学部化学工学科 助手 1991年 東京工業大学 博士(工学) (1994年~ 1995年 文部省在外研究員 ミネソタ大学機械工学科  客員研究員) 1995年 東京工業大学工学部化学工学科 助教授 1998年 東京工業大学原子炉工学研究所 助教授 2004年 東京工業大学大学院総合理工学研究科 准教授

  • 2013年 九州大学大学院工学研究院化学工学部門 教授

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Online ISSN : 2435-2292

Print ISSN : 0375-9253

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