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最近の集中豪雨,台風など自然災害の規模の大きさには驚かされるばかりです。「XX年に一度の」といった枕詞が頻繁に報道されており,「地球温暖化」が進んでいるとしか考えられない環境を実際に体験しています。恐竜時代は約6,600万年前の巨大小惑星の衝突による壊滅的な生物被害で幕を閉じましたが,更に遡り,約2億年前の超大陸の分裂・移動に起因する大陸規模の巨大な火山爆発では,地球生物種の80%以上が絶滅しているそうです。これは,「火山噴火で二酸化炭素を始めとする火山性温室効果ガスが大気中に大量に吐き出されたことや,メタンハイドレートの溶解による気候変動が原因である」と考えられています。急速に進む現在の地球温暖化問題が,大量絶滅の引き金となる可能性も指摘されています1)。我が国では2021年7月,地球温暖化を阻止するため,エネルギー由来の二酸化炭素排出量を2030年度までに2013年度比で45%削減する,特に家庭部門で66%,製造など産業部門で37%削減するとした「地球温暖化対策計画の原案」が公表されました。化学製品の生産技術にも,地球環境を守るために実効性のある具体的な対策が強く求められています。
ところでプロセス化学とは,ミリグラム(フラスコや試験管)スケールの実験室の反応を,トン単位に及ぶプラントスケールに適用するためのステップを担当する架け橋の化学です。基本はあくまでも,優れた工業的合成法を確立することにあり,品質が一定したトン単位の目的化合物を,簡便・安全に、環境に優しく合成する製造法を提供する責務を担っています。つまりプロセス化学は,工業化に付随する極めて広範な問題を解決することで成し遂げられるサイエンスであり,有機合成化学だけでなく化学工学,分析化学,安全工学,環境工学,反応工学などの様々な分野の研究成果が関連する学術領域です。
従来よりプロセス化学の合成と言えば,フラスコや反応釜で反応を仕込み,精製・単離する操作を繰り返す「バッチ合成法」が主流でしたが,最近では,反応混合物を狭小な反応流路内,あるいは触媒を充填したカートリッジ内に連続送液して反応を進行させ,一気に目的化合物まで連続合成する「フロー合成法」が注目されています。もちろん有機合成反応の特性や形態は多様であるため,バッチ法に頼らざるを得ない部分も残りますが,連続フロー法へのシフトが可能な反応も多岐に亘り,今後のプロセス化学の合成を支える重要な分野になるものと期待されています。バッチ法で合成されていた反応を連続フロー法にシフトできれば,反応効率,温度制御,安全性,環境適応性,装置・設備の小型化,反応をオペレーションするマンパワーの削減,オンデマンドでの合成が可能となるなど,様々なメリットが生じます。つまり「気候変動に具体的な対策を講じる」ことにも繋がるため,SDGsへの取り組みにも直結した方法論であると言っても過言ではありません。そのうえで,ファインケミカルの連続フロー合成(ものづくり)を実用的な方法論として確立していくためには,有機合成化学の発展だけでなく,分離精製や単離までをカバーする連続フロー装置の開発とともに,フロー合成に適した新しい分析システムの構築を始めとする,生産技術,分析技術,化学工学などが連合軍を組織して取り組まなくてはなりません。
ところで,産業に関連する様々な分野で知識基盤社会の充実が強く求められているにもかかわらず,多くの先進諸国と比較した場合,我が国の学位取得者数の対人口比は低く,むしろ減少傾向にあるなど,大学院の多様なキャリアパスが確立されているとは言えません。したがってその見通しを明らかにすることが,質の高い若手研究者・技術者を脈々と養成していくための極めて重要な課題となっているのです。我が国が技術立国として再出発し,その地位を維持しつつ,地球環境をも意識した高いレベルでの製造・産業を堅持していくために,連続フロー合成を中心とする多種多様な研究技術が起爆剤となることはできないでしょうか? 連続フロー生産は世界との競争が激しく,新しい技術や学理を高いレベルで構築していくべき分野です。次世代を担う研究者・技術者の養成にも目を向け,途切れることのない技術開発に繋がることを切望しています。
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