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流れや流体は,私達のごく身近にあるものであり,古今東西多くの偉人たちをも魅了してきた。その数学的な定式化は,ナビエ・ストークスによって19世紀の初頭には確立されたが,それが非線形性であることから20世紀になりこれを数値的に求解すること,すなわちComputational Fluid Dynamics(以下CFD)が主流となるまで,ほとんど手付かずの状態であった。以下には聊か我田引水ながら筆者が40年余りに亘りCFDに携わった経緯に沿ってこれを繙くことにより本巻頭言を記す責務を果たしたい。
円柱背後のカルマン渦列を数値的に解析した日本人研究者らの先駆的な仕事を契機とし,1974年に英国Imperial collegeのB. Spalding博士らは,圧力速度緩和を半陰的に解くスキームSIMPLE法を考案し,熱流動解析汎用ソフトPHOENICS®として商品化しており,S. V. Patankar氏のFLUENT®の系譜に繋がっている。時を同じくして1975年には,ロス・アラモス研究所のHirt博士らが,圧力速度同時緩和を陽的に解く3次元流体解析コードSOLAを世に出している。その後,流体汎用ソフトは,国内外で長足の進化を遂げた。国産の汎用熱流体ソフトの草分けであるSTREAM®((株)ソフトウェアクレイドル製)を用い1990年に(株)リクルートは,往時自社が保有していたスーパー・コンピューター,クレイを潤沢に使用して幾つかの長大なデモンストレーション用の動画を作製している。新宿駅西口付近ビル群周りのビル風や国技館内での成層空調シミュレーションなど,今見ても大変に見応えがある。その後,計算分野からリクルート社は撤退を余儀なくされたが,その中から撹拌分野に特化したr-flow®((株)アールフロー)が分派・独立した。
筆者は,1995年に渡英留学中のUMIST(現マンチェスター大学)で,PHOENICS®を弄ったことがあったが,「車を運転するには運転免許を取る気概が必要である。」と使用マニュアルの冒頭であったか,意気軒昂と掲揚されており,やや出鼻を挫かれた思いであった。筆者はまた,SOLAを撹拌槽内の流動解析に合うように拡張し,非ニュートン流体の解析もおこなったが,CFDが如何に気難しい計算であるか嫌というほど思い知らされた。しかしながら撹拌槽内縦断面での綺麗な循環流速度ベクトルをCFDで初めて得た時には,研究の醍醐味を,大きな喜びをもって知ることができ,まさに僥倖であった。今や研究者自らがコードを拡張・改良する機会をおいそれとは持ち得なくなったものと思われるが,ある意味残念なことであろう。意を返すことを記すようであるが,データベースを内蔵し,半経験的に撹拌装置の流動特性を瞬時に表示するVisiMix®のようなアプローチは,CFDの対極として特筆するべき取り組みと思われる。自然は,瞬時瞬時に答えを出し続けているのに対して,答えを得るのにスーパー・コンピューターを用いて長大な計算をする必要があること自体に首を傾げたくなるのは一人私だけであろうか?
筆者は,非ニュートン流体の1つである降伏応力を持つビンガム流体の解析にも大いに手を焼いた。結論から言えば,流動と静止の限界となるCFD計算領域の境界面は,一人CFDのみで決められるものではなく,構造解析的応力計算との連成によって初めて決められるべきものであろう。このような連成計算は,本特集にも取り上げられているCAE(Computer Aided Engineering)・CAM(Computer Aided Manufacturing)の本流をなして行くものとして大いに期待したい。
末筆ながら2021年のノーベル物理学賞として地球大気熱循環モデルシミュレーションの提案者,眞鍋淑郎氏が受賞されることとなったのは,大きな喜びであり,CFDや複雑な現象のモデル化を得意とする私たち化学工学者にとっても美しい招待状となったのでないか。今後,それではどのようにすれば,この地球規模的な環境危機を回避し,あわよくばエネルギー問題をも解消する妙手妙案を捻り出していくことができるのか,多くの研究者の参集を期待して止まない。
化学工学者,フェローはかく語りき。
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