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2022 Vol.86 No.9 巻頭言

特集 液系リチウムイオン二次電池の現状と今後の電池開発の展望

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巻頭言

カーボンニュートラル社会の実現へのリチウムイオン電池の役割

 カーボンニュートラルの社会を実現することは人類共通の大きな課題であり,世界中が一斉に動き出している。日本政府は2030年度に2013年度比で温室効果ガスを46%削減し,2050年に実質ゼロにすると世界に宣言した。これは世界でもトップクラスの高い目標設定である。その実現に向けて政府主導で総額2兆円のグリーンイノベーション基金(GI基金)事業が進められ,既に具体的な18のテーマが設定され研究開発が動き出した。この18のテーマを眺めながら私が感じた蓄電池の果たすべき役割と,どのような電池が必要とされるかについて述べてみたい。

 太陽光発電や風力発電等の再生可能電源を普及させていく必要がある。そのためにはどうすれば良いのであろうか。日本は2019年度での電源構成の約7割を化石燃料に依存しているが,2030年度時点では再生可能電源で35〜40%近くを賄う方向性が示されている。1日の電力需給のバランスを考えると,既に昼間の電力は供給過剰となっている地域もある。今後再エネ電力が増えると更にバランスが崩れてくる。それを如何に平準化していくかが,再エネ電力の主力化に向けた大きな課題となっている。特に日本は非常に狭い島国であり,電力ネットワークには限界があることから,再エネ電力を普及させるためには,蓄電システムが必須になる。とは言え,新たに蓄電システムの導入を図っていくのは,コスト的に非常に厳しい。従って,コストを掛けずに蓄電インフラを構築しないといけない。そこで浮かび上がってくるのが電気自動車(EV)の普及とそれに搭載されているリチウムイオン電池の活用である。私の試算では日本で年間100万台のEV(50 GWh相当)が販売され,10年間稼働すると500 GWhの大規模な蓄電システムが自動的に構築されることを意味している。この蓄電容量は1日の発電量の変動を平準化するのに十分であり,再エネ電力の導入の大きな障壁となっている平準化の問題を,コストを掛けずに解決することができる。これにより発電量が過剰な時間帯にはEVに充電(安い価格で電力の購入),発電量が不足な時間帯にはEVから電力系統に放電(高い価格で電力の販売)というシステムができ上がる。そして,その差額はEVの所有者に還元される。こういう社会システムができると地球環境問題に大きな貢献をしながら,電力会社にとっても有難い話でもある。敢えて付け加えれば,今,充電すべきか放電すべきかを人手を煩わすことなくEVが自分で判断してくれるようにすることであろう。そこで,充電ステーションではなく充放電ステーションという考え方が重要になってくる。

 カーボンニュートラル社会においてはシェアリングという概念が非常に重要となってくる。前述したEVに搭載のリチウムイオン電池を車の電源として使うと同時に,蓄電システムとしても使うというのは用途を共有するという一種の概念であり,これにより大きな経済効果(コスト低減)が生まれることは前述の通りである。

 一方,未来の車社会を示唆する言葉として,“CASE*”という概念が議論されている。これは簡単に説明すると,車は個人所有から共有の世界に移行していくというものである。これはシェアリングの概念そのものであり,これにより大きな経済効果(個人の費用負担の劇的低減)がもたらされる。無人自動運転技術により理想的なシェアリングが実現するというのが“CASE”という概念である。

 こうした未来の世界を想定した時にどのような蓄電池が必要とされるのであろうか。これまでリチウムイオン電池の市場では,専らエネルギー密度が重要視されてきた。しかし,この1,2年で少し様相が変わってきている。エネルギー密度重視とエネルギー密度は低くても耐久性重視という2極化が進んできている。この2極化は今後も続いていくと思われる。特にシェアリングの概念は利用率を上げるということをも意味し,電池はこれまで以上に過酷な条件で使用されることになる。従って,優れた耐久性が必要となってくる。こうした背景からも,リチウムイオン電池の長期耐久性が重要な要求特性となっていくことが予想される。

 このように,カーボンニュートラル社会の実現に向けてリチウムイオン電池は重要な役割を果たさなければならないと考える。

吉野 彰
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吉野 彰

The Role of Lithium-ion Batteries Toward Realizing Carbon Neutral Society

Akira YOSHINO

  • 1972年 京都大学大学院工学研究科石油化学専攻修士課程修了
    同 年 旭化成工業(株)(現 旭化成(株))入社
    1982年 同社 川崎技術研究所
    1992年 同社 イオン二次電池事業推進部商品開発グループ長
    1994年 (株)エイ・ティーバッテリー技術開発担当部長
    1997年 旭化成(株)イオン二次電池事業グループ長
    2001年 同社 電池材料事業開発室 室長
    2003年 同社 旭化成グループフェロー
    同 年 旭化成(株)吉野研究室 室長
    2015年 旭化成(株)顧問
    2017年 同社 名誉フェロー
    2020年 (国研)産業技術総合研究所 フェロー/兼 エネルギー・環境領域 ゼロエミッション国際共同研究センター長
    現在に至る

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Online ISSN : 2435-2292

Print ISSN : 0375-9253

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