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ペプチドとは,2〜99個のアミノ酸がペプチド結合により結合した分子の総称であるが,その配列組み合わせや構造により多彩な性質を示すことで知られる。比較的身近な分子であり,食品や化粧品,サプリメントなどにおいても○○ペプチドという表示をよく見かける。また,アスパルテームも砂糖の200倍とも言われる甘みをもち,飲料や食品に使用される人工甘味料であるが,アスパラギン酸とフェニルアラニンの2つのアミノ酸からつくられており,おそらく唯一,食品添加物として認可されている化学合成ペプチドである。
我々の生体内のペプチドの多くは,タンパク質が生体内の酵素により切断されてつくられており,ホルモンなど身体の随所で生理的な機能調節に関与する。薬学分野においては,100年ほど前からインスリンに代表される生理活性ペプチドの利用が進められたほか,ペプチドが関わる生体情報の機能や伝達・制御系に関する知見が蓄積されてきた。ホルモン的な作用,酵素阻害,タンパク質間相互作用など多岐にわたる活性をもつペプチドが見いだされている。近年では,網羅的なペプチド探索技術やインシリコ・スクリーニングなどのペプチド配列設計手法の進展も目覚ましい。また,機械化によるペプチド自動合成やコンビナトリアル化学の進歩により,多様なペプチドライブラリーを短時間に構築できるようになったことから,ハイスループットスクリーニングが飛躍的に進んでいる。さらに,環状ペプチドなど構造をとる特殊ペプチドのライブラリー化技術も構築され,良好な薬物動態をもち,標的分子に対して高い親和性と選択性を示す新規ペプチド創薬の探索法も開発されつつある。従来の低分子医薬のように経口吸収性や細胞膜透過性があり,抗体などの高分子医薬の高い標的特異性を併せもつ,中分子ペプチド創薬の開拓が精力的に推進され,医薬品開発のガイドラインの整備も進められている。
一方で,マテリアル分野とペプチド科学の融合による生体医療材料やナノ機能性材料も注目されている。医療機器器材の界面で起こる血液凝固や炎症反応を制御するため,機材表面にエンドトキシンや異種動物由来タンパク質の混入の懸念がない生理活性分子として機能性ペプチドを修飾するバイオアクティブバイオマテリアルが提唱されている。ペプチドは,構成されるアミノ酸の配列設計により特定の材料表面に対する自己組織化が可能であるほか,簡便に化学修飾できることからバイオセンサやバイオチップのプローブ分子として様々な診断への利用が進んでいる。今やペプチドは,従来の合成化学的視点だけではなく,工学的指向の研究により応用展開が益々広がりを見せている。
本特集「ペプチド科学の最近の進展」は,(株)カネカの大石孝洋氏の提案により企画された。先の福岡大学で開催された第54回秋季大会においてもバイオ部会シンポジウムとして,執筆メンバーによる講演が第3日目の午後になされた。招待講演として,軒原清史氏((株)ハイペップ研究所)より,「新規原理に基づくバイオチップの開発と診断への応用」と題して,開発されたペプチドマイクロアレイを利用した疾患診断に関する基盤技術とその応用例について解説がなされた。また,國谷亮介氏(ぺプチスター(株))より,「ペプチスターによるペプチド製造のイノベーション」と題して,ペプチド製造における課題と同社において構築された中分子医薬品原薬の合成と精製技術に関する包括的なアプローチについて紹介いただいた。ペプチスター(株)は,オールジャパンの技術を結集し,国内最大級の製造設備でペプチド原薬の高効率・高品質製造に取り組んでおり,製造原価の大幅な削減を達成している。両氏のほか,本特集では,ペプチドを使う(丸山,熊田,川野の稿),ペプチドを作る(岡田の稿),ペプチドを届ける(大島,本多の稿)に関連する最新の研究について解説する。
日本は,生理活性ペプチド探索研究およびペプチド合成技術において豊かな土壌を築いてきた。グローバルな競争が激化する中で,様々なアイディアや専門知識を戦わせ,ペプチド科学の進展と創薬・診断・機能性材料の創製などにおける飛躍的な発展に期待したい。
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