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あれから丁度50年になろうとしている。あれとは1973年秋に起こったオイルショック(石油危機)のことである。恐らく60才代以上の方でないと実感,体感がないかもしれないので,誰もが知っているはずだという前提では話を進めることはできないが,要は中東での戦乱の影響で原油の輸入がひっ迫し,日本国内では物価上昇や火力発電が制約され電力使用量を抑えるべきなど社会不安が一気に拡がったという出来事だった。丁度その前年に『成長の限界』(D. Meadows著,1972)という報告もあって,世界的にも“宇宙船地球号”に存在する各種資源も有限であることが改めて認知された。『油断!』(堺屋太一著,1975)は中東からの石油輸入が途絶えると日本の社会経済がどのように行き詰まっていくかを仮想的に描いた小説である。更に危機感を煽ったのはSF小説『日本沈没』(小松左京著,1973)ではなかったかと密かに思っている。こうしたことに対して資源小国の日本は敏感に反応せざるを得ず,その後の日本のエネルギー・資源政策の変換点になったことに間違いのない出来事であったと言えよう。
その結果国内では,新エネルギーや省エネルギー関連の技術開発のテーマが大規模な国家プロジェクトとして取り上げられ,1989年にNASA(米国航空宇宙局)が提起した地球規模の環境問題(地球温暖化)も加わって,爾来研究開発を含む多くの施策が推進されてきている。こうした社会背景に化石資源を大量に取扱う化学工業界へは,技術改良・革新,プロセス転換による対応が要請されたが,プロセス工学を主務とする化学工学は,オイルショック前のエネルギー消費原単位を約40%も削減させ,省エネ化に多大な役割を果たしたはずである。更に近年では持続可能社会の実現(SDGs)のためにカーボンニュートラル,すなわち再生・循環型の資源利用へと難度が上げられている。
化学プロセスは,基本的に反応と分離操作からなり,それぞれ最適な反応法(反応装置)や分離法(分離装置)が選ばれる。その形式や操作法の基礎は先人の尽力によって確立され専門書や便覧などとなっており,それらと経験を基にスケールアップを伴う実装置の設計がなされる。それにしても,目標の性能に達しない場合どうするのかという愚問を,かつて駆け出しの若輩が企業の技術者へ投げた際には,「何とかします」という力強い返事に,修行を積めばケミカルエンジニアとしてさほど怖気づく必要はなく,「何とかできる」ものだと少し安心した覚えがある。
多大な省エネ化に貢献してきたにもかかわらず,上述の世界的情勢から,更なる「何とかしなければ」という圧力が掛かってきている。現状の化学プロセスは多くの単位操作からなる直列逐次的処理工程を,再編成やコンパクト化・最適化などを通じて限界近くまで「何とかした」状況にあると考えられるが,それを更に「何とかしようとする」には所謂“Game-Changer”が求められる。その1つとして反応と分離を同一装置内にて並列同時処理する複合操作が考えられる。反応蒸留はその好例であり,反応混合物間の揮発度の差を利用する蒸留分離と“協奏”しつつ,本来平衡制約のある反応を生成物側へ可及的に進めることで逐次処理に比べて高い生産効率を実現している。
本誌には,気相あるいは液相の単一相の場合にも,境界として高機能膜による仕切りや液−液界面を設けて協奏効果を発現させる実践的アイデアが紹介されており,それらが研究面だけでなく実用技術として進展し,延いてはGame-Changerとして化学プロセスの革新に繋がることを大いに期待したい。
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